全体を通しては試合が落ち着かないので森本がプレーする機会が少なかったけど、その中では安定していたと思います。とくに憲剛からのあのパスへのコース取りというか走るライン、身体の使い方、ほぼ完璧に近い。その後のボールがスリップして伸びた後の対処も間違いがなかった。あれは、たぶん玉田ならトラップをミスしてボールロストするし、岡崎や佐藤寿は身体を入れられてボールをキープできない。スピードと技術と戦術全てが高いレベルにないと、実現しない。
で、それより何より二点目。
あれはとんでもない!!!!
背中に敵DFを抱えながら決して簡単じゃない駒野のボール完璧にトラップし、驚異的なスピードと半径の小さなターンでシュートまで持って行きやがった。<strong>これだよこれ!!</strong>そりゃ、セリエで点を取るわけだと妙に納得してしまった。あんなの全盛期のカズまで遡らないとお目にかかれない。我が国にこんなストライカが現れたのかと惚れ惚れしちゃった。
いや、本当にあのワンプレーはそれぐらい凄いんですよ。たぶん、森本が大久保や玉田と比べて足が速いかというとそんなに変わらないはずです。いや、もしかしたら50メートル走をしたら大久保や玉田の方が速いんじゃないかと思います。しかし、反射神経+三歩ダッシュをさせたらきっと森本の方が速いんだろうと思います。サッカーにおいて、そしてことFWにおいてはこれが大変重要。ほんのコンマ数秒の差なんですが、それだけで局面が大きく変わる。FWが仕事をするPA内というのは、ピッチ上で最もスペースがないところ。まあ、そりゃゴール前なんだから当たり前。その狭いスペースの中でタイミングをつくって、シュートまで持っていかなきゃいけないんだから大変。
すると、当然DFが邪魔をするのだけど、たとえばそれがコンマ何秒かDFより早く動けたら?そこには、ほんのわずかかもしれないけどスペースが生まれるんですよ。そのコンマ何秒が遅れたらシュートが打てない。例えば、ボクシングなんかで密着(クリンチ)されたら、強いパンチ打てないですよね。その時、一瞬、コンマ何秒か敵が密着する前に動けたら、パンチが打てたら、ダメージを与えられる。ほんのコンマ何秒か遅れるだけで、密着されてパンチが打てなくなる。
それと似たようなものです。ほんのコンマ何秒か先に動ければ、敵が間に合わない。そこにシュートを打つだけのスペースがある。どんなことしたって、シュート打たなきゃゴールをわれないでしょう?だから、この「シュートが打てるかどうか」というのはとてつもなく大きいのです。今まで、日本人FWは「敏捷性が高い」「スピードがある」と言われながら、PA内で活躍できていないのはそのためです。ジュビロで活躍したサルバトーレ・スキラッチは決して最高速がとてつもなく速いわけじゃない。しかし、この一瞬のスピードが速かった。たとえ50M走で大久保や玉田の方が速くても、そもそもサッカーにおいて50Mも全力疾走するのはサイドバックぐらいなもんで、そうそうそんなに長い距離で勝負するわけじゃない。F1カーと原付なら、原付の方があきらかに使えそうでしょ?
森本はそれが速い。
たぶん、あの二点目のシーン、駒野からのパスを受けたら玉田や大久保は一拍おきます。
<blockquote> 1.駒野がパス
▼
2.ボールがきた
▼
3.しっかりトラップ
▼
4.どうやって抜いてやろう(もしくは突破のドリブル)</blockquote>
4リズムありますね。
で、これはきっと守る側も同じ予測なんです。
しかし、あの一連のプレーの森本は違いました。
<blockquote> 1.駒野がパス
▼
2.ボールがきた
▼
3.しっかりトラップ
▼ 3.5 すぐさま反転
4.シュート!
</blockquote>
リズムを崩される。
また、駒野のパスまでは同じリズムできたのが大きい。
そこから、4テンポのところを、もう半テンポの細かいリズムが刻める。
それが、森本が「速い」ということ。
そしてコンマ何秒か速いからこそ、できることがもう一つ。
それは、「想像力」。
シュートまでのプロセスを逆算し、そのイメージを脳内で描く力。
サッカーというのはパスだのドリブルだのシュートだのといろいろありますが、結局はボールを足で止めて、どこかに蹴って、またボールに寄って、また蹴ってという「ボールのキャッチ&リリース」なわけです。「ドリブル」というのは、常にそれを自分だけで行うこと。ゴールにリリースするのが「シュート」。味方にリリースするのが「パス」というわけです。
とすると、ドリブルというのはつまり「ボールをどこに置いて」「どうやってボールに寄るか」の連続なのですね。で、これが難しい。例えば、GKしかフィールドにいないのなら、これは楽ですね。素人の人でもドリブルしてゴール前までいけます。しかし、間にDFが入ると途端に難しくなる。それが複数になればその分難しくなり、自分と相手と他の誰かと誰かの相互的な位置関係、そこからの敵の能力によるテリトリー(要するに足を伸ばしたり、走ったりして届くエリア)を把握して、適切にボールを配置して走らないとボールを取られてしまうわけです。ある種の未来予測的な。
森本はあの時、後ろに何人もいて、しかも狭いエリアでボールを受けました。
ということは、ボールを置くエリア、そのラインはかなりデリケートだったはずです。
背後に迫る敵、背後のスペース、それらをきちんと頭に描き、明確なイメージやビジョンが彼にはあったはずです。だから、あそこで反転ができる。素早い動きがあるからこそビジョンが描けるし、ビジョンが描けるからこそシュートまで持っていける。
これが、日本の多くのFWにはできない。
ビジョンを描くという意味では、佐藤寿や、岡崎、古くは中山なんかは素晴らしいと思います。しかし、彼らにはドリブルやターンで敵にアタックをかけられる技術や身体がない。絵を描くことはできるが、ボールを持った時にできることが少ないので、描けるイメージの幅も狭まる。ゆえに、彼らのゴールのほとんどは「飛び込んで1タッチ2タッチでゴールを奪う」という形のもの。それは、それしかできないから。いかにそこまでのプロセスを描くかということに集中する。個性があるのは素晴らしいことだけど、逆に言うとそれだけ攻撃の幅が狭いということ。FWの得点パターンが少ないということはチーム全体の得点パターンが減るということになる。故に、岡崎や佐藤寿がワントップに入ると攻撃の幅が狭くなる。基本的にスペースへ走り込んでボールをもらい少ないタッチでシュートを放つスタイルだから、中盤から後ろはいかに良い形で、いかに質の良いボールをほうり込むかというサッカーになる。当然、前線で身体を張ったポストプレーからの重厚な攻撃というのは期待できない。その場合は岡崎ではなく前田や巻というチョイスになる。しかしそれだと今度はスペースへボールを出して相手にダメージを与えるというスタイルは厳しくなる。スピードがないし、飛び込んで点でダイレクトに合わせるというイメージも弱い。
そうなると、どちらかに偏るのではなく、スペースにも走れてポストもこなせ、個人アタッキングができ、尚且つ中盤より後ろの選手の得点も促せるようパスもある程度出せる人材が1番バランスが良くなる。それが、=玉田になる。玉田はスピードがあり、フィジカルも悪くなく、テクニックは高校時代から千葉のレオナルドと言われる程高く、中盤もこなすタイプだったためにパスも出せる。しかし、玉田は森本とは逆にビジョンやイメージが弱い。だから、ファーストタッチがぶれる。あれはヒドイ(笑)逆に、あれさえなきゃ大化けするんだがなぁ・・・。玉田を下手だという人もいるが、バカ言っちゃいけない。岡崎や高原の方がよっぽどボールに嫌われているさ(笑)玉田は、自身のテクニックやスピードを使えるだけの想像力がないだけ。だから、はまるとガンガン突破するし点もとれる。
さあ、森本。
ポストもできるし、テクニックも高い。スピードもあるし、左右頭問わず得点パターンもある。そして、<strong>動き出しの早さと飛び込みに限定されないゴールへのイマジネーションがある</strong>。カズ以来、リアルストライカーをついに手に入れたわけです。これは本当に楽しみ。
こういう風に、サッカーとは単にパスがうまいとかドリブルが素晴らしいとかはっきりと目に見える部分だけじゃないわけですよ。実はそれ以外の要素がたくさん絡んでいて、ボールを持つ前にかなりたくさんの攻防がある。そんなことはサッカーファンじゃなきゃわからないし、もっと言うと実際にサッカーをやってきた人じゃないとわからないと思います。解説者は、いかにそこの魅力を届けるかが仕事だと思うんですよ。ギャースカピースカ騒いでるだけだったり、単に悪態ついたり精神論をかざすだけなら邪魔以外の何者でもない。もとい「解説」してないし。
いまそこで何が起きていて、
どうしてそうなり、
どんな目に映りにくい攻防があり、
その後どんな展開があるのか。
これを言えないで何が解説じゃボケェ!!
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