センターサークルのその向こう-サッカー小説-

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サッカーコラム

あのとき、カズが必要だったかはわからない。でも今、左の天才を呼んでほしいんだ。

もうすぐ、ブラジルW杯の日本代表メンバー発表だ。スケジュール通りにいくならば5月13日に予備登録メンバーの登録期限がある。本登録23名の期限にはもう少しあるが、事前のメディア発表によると例年通り23名と予備登録の7名をいっぺんに発表するようだ。

W杯メンバー発表というと、これまで毎回のようにサプライズ選出があった。その最たる例はやはり、98フランスW杯のKINGカズ落選だろう。

 

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あのときの衝撃はいまでも忘れられない。
徐々にトップフォームを失いつつあったとはいえ、カズこと三浦知良はあの時点ではまだ「アンタッチャブル」な存在だった。そのカズを、なんとJリーグの監督経験すらない新米監督が、今度は逆にW杯という未だ日本人が降り立ったことのない夢の大舞台から外したというのだから、さあ大変だ。これは大変だ

未熟だった日本サッカーとそれを取り巻くサポーターやメディアは賛否、いや、否定の嵐だった。あれは紛れもなく「炎上」だった。今なら間違いなくそのフレーズが使われただろうし、一方ではたぶん、いま同じことが起きても当時ほど賛否が偏ることもないだろうと思う。すべては勝利のためであり、そのためであればどのような選手であろうと落選する可能性はある。とくに当時のカズには存在感以外で"コレ"と言える決定的な「当選理由」が無かったはずだ。

そして正直に言えば、僕自身もあの当時カズが必要だったかというと、悲しいが23人のメンバーには漏れても仕方なかったように思っている。チームにはベテランは必要であるし、個々の能力だけで戦えないのも百も承知だ。しかし、当時の日本代表には中山も、井原もいた。確かにカズは精神的支柱の一人ではあったが、しかしスタメン、交代出場のどちらにおいても駒として可能性が薄かったのも事実。

難しい。非常に難しい。
もしかすると、あのとき、カズがいればチームが盛り上がり、より一層の結束をもたらしてくれていたかもしれない。そうしたら、あと一歩だった勝利をカズが呼び込んでくれたかもしれない。それはわからない。だから、答えはわからない。いつだって「過去に選択しなかった判断の結果は闇の中」だ。

でも、だ。
いま、あれから16年がたち、大いに発展した日本サッカー、日本代表において、そのベテランが必要なのではないかと僕は思っている。いや、べつに今回に限った話ではない。02日韓では中山と秋田がその役を担い、そして06ドイツにはその役を担う人物がおらずチームは崩壊した。その苦い体験を忘れずに10南アに残ったメンバーは、スタメンを奪われたものもそうでないものも、チームを盛り立て一丸となることを最優先に行動してくれた。

現日本代表にそういうメンバーがいないというわけではないし、そもそも、おそらく日本サッカー史上最も「世界のTOPで活躍するメンバー」の割合が多い今チームは、もともとにおいて個々人が備えているメンタルだとも思える。香川も、本田も、長友もフォアザチームを忘れることはないだろうし、さらに日本のどんなベテランよりも世界の舞台を知り尽くしている。香川を除けばW杯本大会の経験もある。

それでも、それでも、だ。
僕はどうにも、左利きの彼が必要な時が来るのではないかと、思う。
そこには期待も、不安も入り混じっている。

中村俊輔は、もう日本代表には必要ないのかもしれない。
いや、おそらく単純なピッチ上の「戦術」という意味では、彼は必要ではないし、もっと他に必要なタレントがいる。少なくとも同僚であり後輩の背番号11の方が適任だろう。

ただ、単純なそれではない何かが、W杯にもサッカーチームという「生命体」にもあるような気がしてならない。香川も本田も柿谷も申し分ない。彼らがファンタジーを奏でれば今や世界のどこだって勝負できる気がしている。とても頼もしい。しかし、彼らは若い。いつ、どこで破たんするかわからない。その時に、日本サッカーを長らく支えてきた「先代の左」であり「先代のエースナンバー」が、助けてくれるんじゃないかと妄想している。

香川が、本田が、長友が、長谷部が。何かにつまづいたとき。
日本代表に不穏な空気が流れ始めたとき、僕らを幾度となく救ってくれ、夢を見せてくれ、同時に失望もくれた天才が、だからこその経験と器を持つそのベテランが、彼ら現日本代表の"柱"をそっと支えてくれるんじゃないかと思っている。そしてそれはきっと、彼にしかできないんじゃないかとも思っている。それはわかりやすい言葉や態度であったり、チームが固まってしまったとき、ベンチに座っている「世界に誇るフリーキックという飛び道具」かもしれない。老獪なテクニックと身のこなしが放つキープ力もあるだろう。そして、それらすべてをメッセージとして発信できる「背番号25」という姿そのものでもある。

冷静に見れば、5月上旬に行われるメンバー発表を何回想像したところで「中村俊輔」の名前が呼ばれる可能性は低く、その数字は限りなく0に近いだろう。セットプレーはともかく、いま彼がJで見せているボールキープや"違い"を生み出すプレーがそのまま世界の舞台で通じるかどうかはあやしい。やってみないとわからない。

そしてそもそも、一度代表を引退した彼が呼ばれるとすれば、それはこれまでの何度もの前例が指し示す通り「チームが最悪の状態になったとき」だ。だがしかし、最悪の状態でない以前に、肝心の日本代表戦がない。彼が求められるタイミングすらないのが現状だ。だから、きっと、このサプライズはない。トップ下やパッサーとしてのバックアップならすでに"もう一人の中村"がいる。

でも、それでも僕は求めてしまう。
日本代表がブラジルの地で窮地に陥ってしまうのではないかという不安と、僕らの左利きの天才がそれを救ってくれるのではないかという期待が入り混じる。

香川が腰に手をあて下を向き、本田が怒鳴り、長谷部が険しい表情になったとき、センターラインのその先、タッチライン上にNo.25の青いユニフォームを着た彼が立ってくれていたら、これほど頼もしいことはない。

本当にそうなるかはわからない。
でも、いざというときにそういう絵が想像できるだけでも、僕はホッとする。
そしてそれ以上に、その絵に心が躍る。

「お前ら、下を向くな。行くぞ」

彼は立ち姿だけで、そんなメッセージを、
ピッチの戦友と、スタジアムの仲間と、地球の反対側にいるサポーターに届けてくれそうな気がして。

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