センターサークルのその向こう-サッカー小説-

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サッカーコラム

遠藤のパスは数字だけではわからないんだよ。

ハフィントンポストの「ワールドカップ日本代表の敗因は何か? データで浮かび上がる「コートジボワールの秘策」」という記事がかなりシェアされていて、さらに高い評価を得ていることに違和感を感じたので、ちょっとそれについて論じてみたい。

データはあくまでデータでしかないはずなのだが、どうも「データはすべてを語る」みたいな雰囲気を感じる。そして、それは行きすぎだと僕は思う。数字はどこまでいっても数字でしかない。事実ではあるが、必ずしも真実ではない

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この方(「試合を決めたのは「ドログバ」なのか?データで振り返る日本vsコートジボアール」)にいたっては

データジャーナリズムはスポーツから大きな影響を受けていますが、今回のハフィントンポストの取り組みは日本のスポーツ報道を変えるかもしれません。データを確認すれば、記者や解説者のいい加減さや思い込みもバレてしまいます。スポーツの記者も、きちんとデータを読めなければいけない時代がきたようです(ただし松木さん除く

とまで言っているんだが、さすがにそれは言い過ぎじゃないかと思う。いや、確かに、いい加減な記者がいるのは事実だが、いま日本で、Jリーグや日本代表戦で解説をやっている方々にそれほどいい加減な人がいるとは思えず(もちろん見方が変だなと感じることはあるが)、第一線でやっている人のほとんどは元日本代表クラスだ。そのクラス相手にたかだかこの程度のデータをそろえたからと言って、「解説者に勝てる」みたいなのは言い過ぎだ。(このデータはとても有用でそれを否定したいわけじゃないです)

例えば、ハフポストの記事にあるこの部分が気になるわけだが、

ザッケローニ監督には、後半までしっかり守ってリード、もしくは同点で迎え、後半、遠藤を入れて勝負を決める、というゲームプランがあったのだろう。 しかし、遠藤が入っても横パスが多く、なかなかボールが運べない。遠藤と香川、吉田の距離が空いている。前半終わりから続いていた、長友の裏、吉田の前のスペースが広大に空いている。

遠藤が入って横パスが多いのは決して悪いことではなく、遠藤の適切な状況判断によってチーム全体の横パスが増える(もしくは減りそうなのが維持できる)ことはある。遠藤は脳内にスーパーコンピューターを積み、縦横のパスを状況によって適切に選ぶことができるからこそ、「縦パスを入れるための横パス」を意識することができるからこそ、日本の押しも押されぬ司令塔なのであって、その場合、横パスが多いことは問題ではない。ここで言いたいのは、横パスが多いのが正しいのか縦パスが増えるべきなのが正しいのかということじゃない。数字なんてその程度のものだということを言いたいのだ。

敗因は本当に「日本の左サイドを徹底的に狙われたから」なのか

ハフィントンポストの記事では遠藤投入直後の55~64分のピッチの状態を指して「ジェルビーニョを再び右サイド、日本の左サイド側に戻し、徹底的に裏を狙わせている」と言っている。しかし、たとえばこれを「54~60分」と「60分~66分」にわけるとこうなる(※遠藤は54分の投入)。

コートジボワール「54~60分」

soc_col0617_civ54.png日本「54~60分」

soc_col0617_jpn54.png確かに、吉田が大きく離れていて、ジルビーニョは日本の左サイド奥にいる。ただ、実はこのときの遠藤のパス成功率は100%だ。遠藤だけじゃない。日本の攻撃陣の話をするならば、長友、香川、岡崎、大迫は全員パス成功率100%である。一方で、ジルビーニョの数字は「パス成功率: 0%タックル数: 0ドリブル数: 0」で、シュートを一本打っている。となると、おそらくジルビーニョは1タッチしかしていないのではないだろうか。

では、実際に失点をした60~66分はどうなのかというと、こうなる。(失点は66分)

コートジボワール「60~66分」

soc_col0617_civ60.png日本「60~66分」

soc_col0617_jpn60.png55分のときよりこの時の方が日本代表は左に寄っているのだが、このときのパスワークの中心になるべき遠藤のパス成功率は33%まで落ちている。パスは一本だけ成功しているので、つまりこれは3タッチしてそのうち2本のパスは失敗しているということである。ちなみに香川が80%、大迫、岡崎、長友は100%だが、この4人ともにほとんどがバックパスだ。

そして、両チームのポジショニングを見ていただければわかると思うが、日本代表は全体に散らばって先ほどよりずっと距離が遠くなり、コートジボワールはとくに右に偏っているわけではない。さらに、これはデータをみてもらえばと思うが、この時間のそもそものパス本数が日本代表は少なく、コートジボワールは多い。

仮にここを中心に見れば、日本の左サイドを徹底的に突かれたことよりも、攻めたときに決定的な攻撃ができず、そのあとにパスがつなげず、肝心なところでミスを連発していることが決定的な要因になったという見方もできる

そもそも"そこ"に選手はいたのか

このデータがどのようにして情報を収集して結果にしているかがわからないので正確なことは言えないが、「55~64分」と「54~60分&60~66分」にこれだけの差異がでるのは、そもそもが「平均」だからだ。図を見るとまるで「そこに長い時間選手がいた」ようにみえるが、平均というのはそういうものではない。「平均身長177cm」は、「177㎝の人が一番多い」ということではなく、「全体の身長を人数で割ったらその数字だった」ということに過ぎない。内訳はもしかすると150㎝の人と190㎝の人が多いのかもしれない。

この図で言えばそれが「平均」というならば、右サイドに長くいて、そのあと左サイドに移って同じだけとどまれば、当然図には「中央」が表示されるはずだ。でも、実際に選手がそこにいた時間はほとんどないことになる。その証拠に、右に左に動いたことになっているジルビーニョは90分通すと「中央からちょっと右」にいたことになっている。この平均値を表した図が参考にならないということではない。でも、平均はあくまで平均だということだ。

パス成功率や横パス縦パスの数字に意味はあるのか

もう一つ気になるのは、縦パスが入らない、横パスが多い、という表現だ。もちろん、試合において縦パスを入れることは重要だ。しかし、縦パスばかりでは意味がないし、横パスが無駄なわけでもない。では、そのバランスは何が正解かと言うと、そんなものは相手次第、状況次第でしかない。そもそもロングボールだって縦パスなわけで、それを落ち着けるために横パス、バックパスが増えることもあれば、相手のCBを釣り出すために縦パスを頻発することもある。そして、相手のラインを下げるために時間帯によってロングボールを多く放り込むことだってある。要するに、やっぱり状況次第でしかない

これはパス成功率にも言えて、チームが落ち着かないときであれば遠藤はまずは成功率の高いパスを増やすだろうし、縦パスが少ないと思えば勝負の縦パスを増やすこともある。すると後者の場合はパス成功率が下がるわけだが、これを「間違いだ」と指摘するのはおかしいし、逆に無為な横パスばかりだしている、勝負のパスをぜんぜん出していないのにパス成功率だけをみて「この選手はパスがうまい」というのもおかしい。

ではどうするかというと試合の状況を読み、データを見るというのであればそのパスがどの角度で、周囲がどんな状況で、チームがどんな状態だったかということが必要になる。だが、そんなことまで追っていてはデータでの統計にならない

数字は表現手法であって真実ではない

たとえば、視聴率が高い番組は多くの人が見ているだろうが、では視聴率の低い番組は多くの人が見ていないのだろうか?そして、その番組は本当に人気が低いのだろうか。それが、必ずしもそうとは言えない。たとえばクドカンこと宮藤官九郎のドラマは大概どの作品も視聴率が低い。しかし、視聴率が低いのだから人気が無いのだろうと思うとそうでもない。DVDやグッズの売れ行きが良かったりする。「クドカンの人気は遅れてやってくる」と言われる由縁だ。

その原因は、世代的に録画している人が多いのかもしれないし、感度が高い(センスが良い)人が中心に見ていて、リアルタイムでは視聴率が悪いが、そのマニア性の高い人らが火付け役になり、クチコミからブームになっているのかもしれない。しかし、それは視聴率には表れない。

クドカンと言えば、NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」も記憶に新しい(くはないか・・・)。日本中をブームに巻き込んだ作品であるが、では視聴率が良かったかと言うと、実は後番組の「ごちそうさん」の方が平均視聴率も最高視聴率も高い。だが、では「ごちそうさん」が「あまちゃん」を超えるブームだったかというと、それに賛同する人は稀だろう。

あまちゃんの視聴率に表れない成功要因が何なのかは長くなるので省くが(というかわからない)、つまり視聴率とはあくまでも「リアルタイムで見ていた人の割合」でしかないのだ。なんとなく数字で出されるとわかりやすいような気がするが、視聴率は視聴率であって「人気度」の「真実」ではないのだ。

「わかりやすい」という時点で何がしかが欠落している

「わかりやすい」と「正確で正しい」はときにトレードオフになる。「正確で正しい」とはつまり「寸分の狂いもない」ということだ。それは結局、「細かなところも外さずに表現されている」ということになる。だが、「細部にわたってすべてが表現されているもの」は決して「わかりやすい」ものではない。大学教授や医者、はたまた法律まわりが厳しい?不動産屋の話がわかりづらかったりするのは、「正確」ではあるが「そのぶん細かい情報まで網羅されている」からだ。素人には余計な情報が多いわけだが、その余計な情報を落としたものは「正確」ではないことが多い。

数字と言うものはその最たる例で、先の視聴率でいえば人気度に関して一見すると「わかりやすく」表現されているが、実際はその裏での様々な要素を排除している。だからこそわかりやすい。逆に言えば数字にした時点で何がしかの要素は欠落しているのだ。

ハフィントンポスト記事の話でいえば、選手のポジショニングを平均値で図式化することでなんとなくわかりやすくなってはいるが、その裏では「選手が本当にいた場所の情報」は欠落している。他にも「パスの成功率」を表現した時点で「難易度」は見えづらくなっているし、選手の位置とパスの数を点と線で表現した結果、ドリブルの情報はほとんど見えなくなっている

ハフィントンポストの記事が間違っているといいたいわけじゃない

数字が悪いというわけじゃない。ここで言いたいのは「数字なんて所詮その程度のもの」ということだ。ハフィントンポストの記事に対して、僕はすべてが間違っているといいたいわけではない。いや、むしろ、実際の試合と照らし合わせれば頷ける部分も多い。ただ、それも一つの捉え方に過ぎず、数字というのは捉え方でいかようにも変わる。ある人はポジショニングを見て「右を執拗に突かれた」といえば、ある人は「右の攻撃に追い込んだ」というかもしれない。

おそらくコートジボワールが日本の左サイドを狙っていたのは事実だろう。ただそれは、事前に「日本代表のストロングポイントは左サイドである」という情報が前提となっているからこそ出てくるものであって、そのとおり、数字とは本来、仮説とセットで語られるべきだ。数字だけで真実がわかるわけではないし、数字で表現したからといって、わかりやすいだけであってそれが絶対に正しいとも限らないんだ。

数字でわからないこそサッカーは楽しいんじゃないか

ハフィントンポストの試みは確かに画期的で、見ている方としても楽しい。素人の分析の幅が広がるのも確かにその通りだ。しかし、テレビ朝日の中継でピッチレポーターのくせに解説席の誰よりも的確な解説をする名波浩は、ここまで割り切られた数字を見ずとも、きっと冷静に試合を分析できるだろう。それは日本代表の頭脳といわれた山口素弘も、やたらと解説だけはうまい(最近見ないが)加茂周さんもそうだと思う。それができるから彼らはプロの解説者なのだから

冒頭に引用したYahoo!の記事で「解説者のいい加減さがバレる」とあるとおり、「いい加減じゃない解説者」はそこに含まれないのかもしれない。しかし、それ自体がもうわからないのだ。確かに杉山ナンチャラだとか、久保ナンタラなどいい加減に見える記者もいるが、彼らも含め本当のところは誰にもいい加減かどうかはわからない(まあそもそもサッカーの話になってない論理構造が崩れている人もいるが)。名波も加茂周もセルジオももしかしたら見当はずれかもしれない。だがそれも、本当は誰にもわからない。でも、だからこそサッカーは面白いんじゃないか

香川のドリブルも、遠藤ののらりくらりとしたパスも、本田のなんでかわからんが本番で点を取る決定力も、数字で測りきれない。数字で表せば何かはわかるかもしれない。でもその時点で何かは失っている。数字をこねくり回すもよし、見たシーンから動き方を分析するもよし。10人いたら10人の見方があって、みんなで議論して、でも何が正しいのかわからなくて、だからサッカーはこんなにも面白い。

それに、中村俊輔の芸術的なスルーパスは数字では見られないんだよ。岡崎の運動量は数字で見えても、ひたむきな姿や危険をかえりみないダイビングヘッドは、数字には表れない。長谷部のキャプテンシーも、川島の「アツトォー!!(怒)」もデータには表れない。しかしそれら全部含めて、サッカーの本当に面白いところじゃないか。そして、プロの解説者はその楽しさを独自の視点から教えてくれるんじゃないか。

数字が悪いわけじゃない。
でも、まるで「これさえあれば解説者はいらない」というのは違うし(そこまで言ってないけど)、「解説者に騙されない」と言うのもまた違う。数字を駆使すれば逆に簡単に騙せる。

数字が悪いわけじゃない。
でも、サッカーの楽しさは、数字だけでわからないからこそなんだということを、どうしても言っておきたかった。

こんなに長い文章を最後まで読んでくれた方、本当にありがとう。

ともに日本の勝利を願って応援しましょう。

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