センターサークルのその向こう-サッカー小説-

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サッカーコラム

おそらく、なでしこは今後苦戦する。

衝撃的な試合だった。

男子ならいざしらず、女子日本代表が、なでしこジャパンがあのような敗北を喫するなど、幾度の死線を乗り越えてきた彼女達からはさすがに想像もつかなかった。2-5というのはその数字通りの大敗であるし、実際、ピッチ上ではそれだけの力の差があった。いや、正確に言えば「当たりまくっているときのアメリカとは」が前段につく。

だいたい、前回大会の決勝も似たようなものだったとも言える。序盤にガツガツおしこまれ、あわやというシーンを連発されるものの、それを凌ぐことでなでしこは自らの落ち着きと敵国のマインド減退を手に入れ、そこから本当の勝負、という感じだった。それが、今日はアメリカの日だったというだけのことなのかもしれない。

ただ、それほど悲壮感漂う雰囲気が、TV観戦している自分にはなかった。これはおそらく免疫があるからで、2006の対ブラジル、2014の対コロンビアで見てきたからだろうし、サッカーの世界では(も)これこそ「経験という名の歴史」というのだろうと思う。

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序盤の失点における、「澤」の不在

あくまで結果論だが、澤を、レジェンドを先発で送り出していればこのような結果にはならなかったかもしれない。1失点目、2失点目はともかく、少なくと3失点目と4失点目は落ち着いていれば確実に防げた「不要な失点」だった。要するに、なでしこはたぶん浮足立っていた。そんなバカなと思うかもしれない。まかり間違っても彼女たちはディフェンディングチャンピオンであり、オリンピック銀メダリストである。これまでいくらでもそんな場面はあった。けれども、W杯の決勝は一度しか戦っていないし、なにより、あれだけ調子の良いアメリカにあれだけ簡単に早い時間に2失点も喫したことはなかった。さぞ脅威だったろうと思う。

実際、ピッチの各所でアメリカは猛威をふるっていた。
それなりに戦えているときのなでしこジャパンであれば、それでも、数的優位を確保し、プレスをかけ、緻密なパスで相手をいなし、それこそバルセロナのように巨人をひらりひらりと交わしてボール保持率を高めていたのだが、それすらできなくなっていた。

とりわけ3失点目は岩清水のクリアミスがほぼ直接的な原因となったが、あれは本来ありえないものだ。
岩清水はあんなミスはしない。あんなミスはしないから宇津木でも北原でもなく、小柄な岩清水がDFリーダーなのだ。僕は何度かなでしこリーグで岩清水を観戦したことがあるが、「身体能力に優れる熊谷はともかく、岩清水はなぜ代表なんだろう?」と思っていた僕の先入観を見事に吹き飛ばしてくれたのを覚えている。なでしこリーグでも小柄な方に入る岩清水は、しかしピッチに立てば巨人だった。はっきりいってなでしこリーグのレベルでは才能を持て余してるとさえ思ったほどだ。DFの読み、カバーリング、判断、キックの精度、どれもとてつもないほどの才能だった。まるで往時の井原正巳をみているかのようだった。明らかに相手の方が大きく、速かったりするのに、その適確かつ素早い判断でいとも簡単にボールを奪ってしまう。彼女一人がいるだけでベレーザの守備はかなり助かり、それは攻撃にも活かされている。

その、クレバーの塊みたいな岩清水が、クリアミスをした。

なでしこは、そういう状態だったのだろうと思う。
今までにない恐怖を感じながらピッチに立っていたのかもしれない。そんなとき、頼りになるのはいわずもがな、「澤穂希」だ。その証拠に、佐々木監督が岩清水を下げ、阪口を1列後ろに配備し、澤をピッチに送り込んでからはそれほどの混乱はきたしていないはずだ。むしろ、その後になでしこの時間が来ていた。全盛期のキレはさすがにもう澤には無いのかもしれない。しかし、ピッチで役に立たないほどの衰えは見せていないし、いまもってトップレベルを維持している彼女はじゅうぶんにピッチに立つ資格を持っている。そして、何よりも、そのプレー一つ一つが、なでしこ達に闘志と安心を与える。彼女は、いまもってなでしこにおいて、いや、日本サッカーにおいて唯一無二の存在である。

あくまで結果論だ。
あくまで結果論だが、もし、澤を先発で送り出していたら、結果はもう少し違ったものになっていたのではないかと思う。ただ、佐々木監督の送り出した先発は至極真っ当なものだったし、体力的な面、勝負所のカードを考えると、現実的にはやはり澤はベンチスタートが妥当だったのだろうとも思う。

マラドーナシンドローム

澤の話をここまで書くと、カンの良い人は「ははーん、澤シンドロームだな」と思うかもしれない。だが、そうじゃない。「澤が先発でピッチに立っていたら」とは書いたが、しかし一方で現在のなでしこジャパンにおける澤の戦術的重要度は前大会のそれより、ロンドン五輪のそれよりかなり下がっている。基本的には、澤はピッチにいなくてももう何とかなるレベルまでは来ているのだ。だから、澤をベンチに置いていても決勝戦までこれたのだから。

しかし、その、決勝まで来たメンバーに問題がある。ちょっとすぐ手元にデータが無いので正確性は低いかもしれないが、決勝戦のピッチに立った選手のうち、前回大会に登録されていなかったのは右サイドバックの有吉だけではないだろうか。さらに、それ以外のスタメン選手はほとんどが前回大会の決勝もスタメンか途中出場だったのではないだろうか(たぶん、 大儀見が途中出場だったはず)。

今大会、「リトルマナ」こと岩渕真奈が盛んに「なでしこ最年少」と謳われているのだが、普段サッカーを見ない層はきっと忘れているのだろう。リトルマナは、前回大会も出場している。最年少!というとまるで期待の新人のような印象を受けるが、何をおっしゃる、彼女は前回大会も出場しているなでしこ歴ではベテラン側に入れられてもおかしくないメンバーなのさ。つまり、最年少最年少と言っているが、実は前回大会も最年少だったはずで、要するに着実に4歳、歳を取っただけのことなのだ。もちろんその内訳には新メンバーもいるし、平均年齢としては多少下がっているはずだが、しかし、23人中、新メンバーは6人しかいないのだ。さらに前回大会は21名だったから、単純に二人新メンバーが追加されたと考えると、前回大会メンバーとの比較で言えば、現実には4人しか入れ変わってないことになる。

つまりこういうことだ。

「なでしこジャパンは4年前とほとんど同じメンバーで戦い、最年少は変わらずそのまま4つ歳をとった」

誤解のないように記載しておくと、佐々木監督がこれを指を加えてみていたわけではない。アルガルベカップや五輪予選など、幾度となく若手を起用してきた。なんなら、宮間などの中心選手を外してまでテストをしてきた経緯がある。しかし、ドイツ大会のとくにスタメン選手を外すと、なでしこは途端にレベルが落ちる。トラップの角度が悪かったり、パスのコースが合わなかったり、途端に高校生のようなサッカーになる。TVで見ていても「なんでいまそこに?」というようなパスミスを連発してしまうことがある。

ただ、なでしこジャパンとは、以前まではそうだったんだ。

細かいパスを繋ぐと言いながらポンポンとミスを重ね自滅する。
ポジショニングが悪かったり、特に判断の悪さでボールを奪いきれず中途半端な守備で突破されて~など毎試合のように起こっていた。そのなかで、唯一、まるでテクニックから戦術まで熟練された男子サッカーのようなプレーをする選手がいた。それが、澤穂希だった。澤は明らかに次元の違うプレーを見せていた。アテネ、北京での澤のプレーは、そこにたった一人だけピッチのすべてを見渡し、適切に判断を下し、絶妙なトラップや球離れでボールを決して奪われない選手として存在していた。すごかった。本当にすごかった。「一人だけ男子が混ざってるじゃねぇか」と疑うほどに、すごかった。

それが、北京を終えたあたりから、状況が変わってくる。

澤のプレーについてくる選手が増えてきた。

中田英寿の全盛期を超える存在感を放っていた澤は、徐々にその存在感を減退させていった。いや、正確には周りの選手が追い付いてきた。その筆頭は間違いなく宮間だろう。2011の時点では、もはや技術においては宮間の方に軍配が上がるというところまできた。そう、現なでしこメンバーは、驚くほどにレベルが高い。ともすれば澤が埋もれるほどに、各ポジションに才能が集まっている。もしかするとそれは、澤穂希という日本サッカー最強の選手に引っ張られることで生まれ育ってきた存在なのかもしれない。ゆえに、それ以降の選手がピッチに立つとどうしてもレベルが落ちる。

いや、おそらく単純なボールスキルや身体能力ならさほど見劣りするものではない。しかし、ゲームの状況判断、適切なボールの落としどころ、パスの角度、ポジショニングなど「いかにサッカーを知っているか」というところで、どうしても質が落ちてしまう。鮫島彩はやはり良いタイミングで攻めあがるし、あの細い身体でもきっちりとスライディングでボールを切ることができる。さらに、空中戦をしかけられかなわないと見るや、きっぱり諦めてサイドに蓋をするという英断を一人で行えるほどのサッカー脳を持つ。そんなサイドバックそうそう出てくるものでもない。

正しくは、そんな選手たちを今大会で見出すはずだった。今大会までに準備を施し、大舞台で成長を促すはずだった。ちょうど4年前のそれと同じように。しかし、4年前奇跡を起こしたなでしこの面々は、国内に残っていた若手にはとてもハードルが高すぎた。それほどの才能が集まっていた。それほどに、この4年を戦ってきたなでしこは「最強」だったのだ。しかし、それは引き換えに「後進が育たない」という事象を引き起こしてしまう。いつの時代も、天才の世代の後ろには谷間の世代がある。

振り返れば、今日、決勝のピッチで戦ったアメリカには前回大会を経験しているのは数人。先発としてピッチに立ったのはもっと少なかった。そう、アメリカは、メンバーを変え、経験を積ませてもなお、あの強さなのだ。我らが最強なでしこをもってしてもかなわなかったアメリカは、メンバーをちゃんと入れ替えていた。

批判をしたいわけではない。でも覚悟をしておかなければならない。

僕はなでしこを批判したいわけではない。そうじゃない。むしろ応援したいからこそ、覚悟をしておかねばならないと思うのだ。このあと、なでしこはきっと苦戦する。これまでの4年間がまだよかったと思えるほどに苦戦するに違いない。いまの天才たちの多くは一戦を退いてしまうのだから。マラドーナなきあと、アルゼンチンが苦しんだように。ジダンとその仲間たちが去ったあとのフランスが苦しんだように、なでしこにもきっと同じ時代が来る。天才たちと歓喜した4年の代償が、必ず訪れるだろう。

大事なのは、それでも悲観しないことだ。
幸い宮間はまだ現役で、もともと身体能力で売っている選手ではない。彼女一人いるだけでも、きっと日本は救われる。そう、男子A代表のヤットのように。

大事なのは、悲観して、なでしこジャパンから興味を失ってしまうことだ。
いつか必ず復活してくれるだろう。
そのときのためにも応援し続けなければいけない。
また新たな黄金時代が訪れるために、世界の強豪であり続けるために。

これからも、澤穂希という伝説が繋ぎ紡いできた道を、僕は応援しようと思う。


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