センターサークルのその向こう-サッカー小説-

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サッカーコラム

香川真司から10番を外すべきたった一つの理由。

香川がどうやら好調なようだ。

まだ第1次ドルトムント期ほどではないようだが、少なくともマンU時代、その後ドルトムント復帰直後の2014年よりは調子が良さそうに見える。

しかし、それでも物足りないというのが日本サッカーファン、そしてドルトムントサポーターの正直な想いではないだろうか。

個人的には、香川はまだ戻ってきていないと思っている。まだ、僕らの香川真司はどこかにいったままだ。いまでもドイツで黄色の23番をつけているにも関わらず、やはりまだ戻ってきていない。もうこのまま戻ってこないのかもしれない。あの日、イングランドに旅立ったそのときから。

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誤解のないように書いておけば、今もって、現時点でも香川真司の能力に疑いはない。いまでも日本代表に、日本サッカーにおいて非常に高精度、ハイクラスな能力をもったMFであることに変わりはない。

ただ、日本代表において絶対的な存在かというと、正直なところあやしい。その圧倒的な存在感とキープ力を持つ本田圭佑は日本代表においてもはや外すことのできないピースだろう。点取り屋としては岡崎もいまや1stチョイスとなっているメンバーといえるかもしれない。

そこへ来ると、香川は微妙なところだろう。A代表の中盤はこれまでの歴史通り激戦区であるが、3枚しかないこのなかで(厳密にはここだけではないが)、香川が入れるのは守備を強く求められる1枚を除いて残りの2枚になる。タイプが違うとはいえ、柏木、清武、柴崎、長谷部など群雄割拠といえるこのポジションにおいて、絶対的な地位は得られていない。

絶好調を維持していた香川であればこのようなことはなかったはずだ。もはや中盤およびサイドFWの1枚という枠はこの男で確実に埋まる、ということになっていたはずだ。だが、いまの香川にはその力が無い。赤いユニフォームに着替えてからというもの、香川の「なかのひと」は変わってしまった。

"遅くなった"香川

はっきり言おう。
香川は確実に"遅く"なった。いや、もしかするとトップスピードは以前と変わらないのかもしれない。そもそも、香川はスピードのある選手だ。そのスピードに、テクニックとイマジネーション(これはポジショニングも、身体の使い方も、ボールの置き方も含む)がかみ合わさった世界トップクラスのクリエイティブなアタッカーだった。

いうなれば、トラック、大型車、F1カーがいるなかに原付きバイクが入って、加速、クイックネス(小回り)、機動性、そしてそれらを適切に使えるイマジネーションで圧倒的な活躍をしていたと、個人的にはそう思っている。

遅くなったのは"3歩"と"シンキングスピード"である。
サッカー選手には100mのタイムより、3歩ダッシュ、10mの速度の方が大事だと言われている。もともとピッチが長くても90~120mしかないのだから、100mのタイムが速くても最高速にたどり着く前にピッチの端が来てしまうのだ。それよりも初速が、3歩ダッシュが速い方がよほどサッカーには活きてくる。

後者の"シンキングスピード"は文字通り考える速さ、判断のスピードである。
香川はメッシほどのスピードやクイックネスは無い。だが、その香川がブンデスリーガでもプレミアでも大男相手に活躍できたのは、スピード、テクニック、を最も適切に使えるシンキングスピードがあったからだ。当たられる前にボールを取られないところに置く、当たられても良いように体を預ける、届かないギリギリのところにトラップを置いてドリブルのコースを取る。香川はこれが優れていたのだが、いまはそれがない。

試しに、復調してきた今期のダイジェストを見てほしい。

(良いプレーを集めた動画なのだから当たり前だが)決して悪いプレーじゃない。とくに特筆すべきはトラップから切れ込んでのミドルレンジのパス。弧を描くそのボールは敵DFの頭上を通り越し、ぴったりと味方に合わせられている。しかし、そもそも香川はこんな選手だっただろうか。そして、全盛期と比べるとやはり遅く見える。いや、もっとわかりやすく言うのなら「ドタバタしている」。香川はもっと早くそして美しかった。

ためしに、復調する前、マンUから復帰したばかりのプレーを見てみればわかる。今期よりさらに遅い。見る前に書いてしまうが、トラップがブレ、判断に速度が無く、象徴的なのは次のプレーを探しながらボールをキープしてしまう時間が非常に長い

誤解のないようにここでも改めて書いておくが決して悪いプレーではないし、すべてがすべて遅い、ドタバタしているわけでもない。ただ、良いプレーを集めた動画がこれなのだという事実も見てほしい。ボールをこねながら、またぎながら横に移動して次のプレーを探し、ときにつぶれるというのは日本代表で衰えをささやかれはじめたKAZUのプレーとダブる(注:もちろんKAZUは素晴らしい選手)。

そんなに違うもんかと思うかもしれない。
たぶん、第1次ドルトムント期を見ればわかるだろうと思う。

もしかすると、ゴールに到るまでのかかっている時間はさほど変わらないのかもしれない。
ただ、このときの香川にはプレーに迷いが無い。だから判断が速い。

トラップ、ドリブル、パス、シュート、いやボールを持った時のコンテンツに限らない。ボールを受けるためのランまでもが、まるでそこにボールが来ることを確信しているかのように迷いなく走り抜けている。

おそらくこの時の香川にはボールを貰う前からゴールまでの道筋がその場で未来映像として見えていたはずだ。だから判断に迷いが無い。そして、そこに余裕があるから、仮にその未来映像と違う展開になったとしてもすぐにまた違う未来映像を描ける。だから、その後のプレーにも迷いが無い。

第1次と第2次で香川において最も変わったもの

それは、背番号。

冗談みたいな話だが、本当にそう思っている。

背番号というものがプレーに与える影響を軽視してはいけない。無論、すべての選手に影響があるほどのものではない。たとえば本田は日本代表で10番を背負っても、ACミランで10番を背負わなくても、そのどちらのチームにおいてもさほどプレーは変わらないだろう。ミランでいまいち結果が出ないのは背番号のせいではないあれはミランがクソみたいなサッカーをしているからだ。

ただ、香川はそうじゃない。
各種のインタビューを追うとわかるが、香川は基本的に根が真面目で繊細である。もちろん一般生活のそれであればむしろメンタルは強い方なのだろうが、これが全国から、全世界から期待をプレッシャーをかけられる職業になったときのそれはレベルが変わってくる。"ある意味で"真面目な選手ほど繊細なものである。

もう4ヶ月前のインタビューになるが、9月のNumber誌でインタビューに答えている。

売り物であるため詳細をここに書くわけにはいかないが、Number公式サイトにこのインタビューの紹介ページがある。

http://number.bunshun.jp/articles/-/824201

■大きな変化を生んだきっかけとは。

一つは「準備」。
最大限の準備をして、試合に臨む。
香川選手は今回のインタビューで、「準備」という言葉を多く使った。
これまでと現在とで、香川は「準備」の質や量、その準備に取り組む意識を、大きく変えていた。

そしてもう一つのキーワードは、「アジアカップ」。
優勝を期待されながらもベスト8で敗退したアジアカップ。しかし香川自身にとっては、大きな変化のきっかけとなる大会となったのだという。
そして話題は、ブラジルW杯のこと、マンチェスター・ユナイテッドから昨季ドルトムントに復帰するまでに及んだ......。

準備、そしてアジアカップとある。
香川はインタビューのなかで結果が出せなかった原因を探り、準備をして臨む意識を高め、非常に真面目に、真面目にこれまでのことを振り返り、何をすべきだったのか、どうしていくべきなのかを語っている。これそのものは批判されるべきことではないし、おそらく香川の語っていることは事象として間違ってはいないのだと思う。

しかしそれが良くない、と、思うのだ。

香川のインタビューにダブってみえる選手

インタビューを読んでいて、ある選手に考え方が似ているなと思った。何人かいるのだが、その一人は同じ日本代表の絶対的なキャプテン、長谷部だ。事態を分析し解決先を見出すことのみならず、「準備」とは心を整えることが大好きな我らがキャプテンの専売特許だろう。

そして、もっと似ているなと思った選手がいる。

中村俊輔だ。

僕は日本サッカーにおいて中村俊輔ほど「うつうつとサッカーを考えるファンタジスタ」を知らない。彼は本当にとにかく年がら年中サッカーのことを考えている。どうしたらうまくなるか、何がダメだったのか、どこを改善すれば良いのか。「サッカーノート」という彼の代名詞にもなったそのツールが象徴的だし、さらに中村俊輔は「その思考を人よりもさらに先へ進めること」と、自著の「察知力」という本で語っている。

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そして、実は先ほどの表現は正確じゃない。

僕は日本サッカーにおいて中村俊輔ほど「うつうつとサッカーを考えるファンタジスタ」を知らない。

正確には、

『僕は日本サッカーにおいて中村俊輔ほど「うつうつとサッカーを考えながら"成功した"ファンタジスタ」を知らない』

中村俊輔という人は正直に言って、根が明るい人ではない。ベテランになった今でこそ若手のことを考え、チームのことを考え声をかけられる器の大きい男であるが、根底にあるのは「サッカーヲタク」である。たぶん、彼が何かの職人になったら、きっと毎日作品や製品にむかってブツブツブツブツと喋りつづけるそんな人になっていたのではないかと思う。

つまり、中村俊輔はそういう人なのである。

あんなにウツウツとネガティブなこともポジティブなこともバカ正直にクソ真面目に考えてよくつぶれないなと思うが、彼はそういう芸術家タイプの選手なのだろう。それでいいのだ。

香川真司は○○でいい

一方で、たぶん香川はそういう選手ではないのだ。
性格的には中村俊輔や長谷部に近いものを持っているのかもしれないが、プレーの個性が違う。中村俊輔が芸術家肌ならば、長谷部は真面目がそのままプレーに出る、彼こそバカ真面目クソ真面目こそがウリの選手なのだ(レッズ時代はもっと華麗な選手だったのだが)。

きっと、ドルトムントに最初に移籍した頃、香川はいまのような考え方ではなかったはずだ。あのときの香川はもっと野心に満ち溢れていた。「何が悪かった」ではない。「もっとうまくなってやる」。2010南アW杯の本大会登録メンバーに落選し、サポートメンバーとしてチームに帯同するという経験は、これ以上ないほどの屈辱だっただろう。その経験を持ってのドイツ挑戦、香川のメンタルはプレッシャーではなく野心で支配されていたのではないだろうか。

いま、香川が真面目に分析し「準備」というフレーズを意識するのは、おそらく責任感から来るものだろう。日本の10番として、エースとして、結果が出せなかったこと。そしてなお今でも日本サッカーファンから大きな期待をもらっていること。そういうものが、彼を真面目にさせているのだと思う。

ただ、香川はそれじゃダメなのだろうと思う。
第一次ドルトムント時代に描けていた未来映像は、おそらく理屈ではないのだろう。たぶんあれは直感的なものなのだろうと思う。そういう意味では、香川は中村俊輔のようなタイプではなく、もちろん本田圭佑のようなビッグマウスを力にするタイプでもなく、藤田俊哉のようなタイプなのだ

藤田俊哉がどういう選手かというと、その少し後ろで最高のコンビネーション、阿吽の呼吸を見せていた名波との比較がわかりやすいだろう。

名波といえば遠藤保仁の前に日本代表においてスーパーコンピューターを積んでいた日本屈指の司令塔である。N-BOXという非常に連携の難しいサッカーを実現できたのはあの5人がいただけでなく、その中心に名波がいたからこそである。彼にはサッカーに対する明確なビジョンがあり、すべてのプレーに意味がある。「ボール半ころがし」という単位で時を司る名波である、ピッチ上の監督と言われるその頭脳は日本の宝である。

一方で、その前でMFとして圧倒的な得点力を誇った藤田はどうかというと、これが本当に記者泣かせだ。名波との対談を読めばそれが良く分かるが、同じインタビュアーに同じ質問をされたというのに、藤田はだいたいプレーの根拠を「なんとなくそう思ったから」という男である。

一年後輩で名波が清水商業に入学してきたときも、「名波が左利きでこういうタイプだから、同じMFでも俺はこういうタイプで、きっと良いサッカーができる」・・・なんてことは微塵も思わず、「アイツは左で出て、俺は右で出ればいい。とりあえずポジションかぶんないな(だからだいじょうぶだな。お前も頑張れよ)」としか思わなかったというのだから。

要するに、藤田俊哉という選手は基本的に「バカ」なのだ。深く理論づけて考えることはせず、なんとなくでプレーする。しかしその抜群のテクニックと圧倒的なサッカーセンスで、FW登録以外の選手としては史上初のJリーグ通算100得点を達成する、それが藤田なのだ。

香川は10番じゃない方が良い

香川真司もきっと、根はサッカー(バカ)小僧であり、藤田俊哉と同じタイプなのだ。少なくともプレースタイルは中村俊輔よりも名波浩よりもずっと近い。

香川は、うつうつと考えに考え抜き、想像力を膨らませてプレーするような中村俊輔のようなタイプではないのだ。中村俊輔のようなタイプには10番はさらにそのプレーを昇華させる機能を持っていたのだと思う。しかし直感的な香川には、たぶん10番は与えるべきではないのだ。決して彼のプレーが10番に値しないということではない。

そうじゃなく、香川に10番を与えてしまうと本来の輝きを失い、動きが硬くなってしまうのだろうと思う。そう、だから、香川の今のプレーは少しドタバタして見えてしまう。強い責任感が、身体が硬くしてしまうのだろう。

だから、ドルトムントの背番号が7から23に戻ってのもきっと復調のきっかけの一つになっていると思うんだ。何も背負ってなかったころの、楽しいプレーをして上に行くことだけを考えていたあの頃の背番号に戻ったことは、きっと心理的に影響していると思う。

香川は、バカで良いのだ。

細かいことは考えず、子供みたいにサッカーをやっていた方が、世界中を虜にできるのだ。

藤田俊哉に、ロナウジーニョに背番号10を与えても大してプレッシャーには感じないだろう。たぶんそんなものはねのけるほどに良くも悪くもおバカなのだ。責任感の前にサッカーを楽しむ方が勝つ。香川はそうではなく、そしてたぶんその辺は時代の流れであり、香川はつまり「最近の子」なのだろう。本当はサッカーバカでいいのに。

だから、香川から10番を外してあげてほしい。


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