明日の13時に箱根の道の駅に行き、綾菱という人に会う。そのあと質問をしても、それ以上の情報は出てこなかった。一応、社員にも拒否する権利はあるはずだがどうする、と問われたが、きっと無駄なことだと思って受け入れた。もう少し理由なり状況説明なりがあれば何か訴えることもできるがあまりに情報がなさすぎる。そして、本部長ですら何も知らないというのだから、ここで何かを訴えたところで本部長が返り討ちにあってくるだけだろう。なにせ社長の勅命なのだから。嫌なら会社をやめて転職するしか無いし、そうすればいい。そのためにはまず対応してみて、それでダメなら行動に移せばいい。幸い海外ではない。自宅からでも通えないことはないし、生活もそれほど困るわけでもない。
「長・中編小説(一般)」アーカイブ

じゃあ、何かあったら連絡ください、と言ってその打ち合わせを終えた。業務に戻れば、僕も薮田も斎藤も、普段と何ら変わりない日常だった。甘ったれた斎藤は今日も薮田に怒られて、それでもニコニコしながらPCに向かっている。武田さんはいつもどおり自分だけコーヒーを入れて、黙々と仕事をしているし、薮田はやっぱりいつもどおり忙しそうだ。まあ、周りに言わせれば僕が一番忙しそうにしているらしいが。
そんな日常的な光景のおかげで、僕も仕事に集中できた。チームのリソース管理、スケジュール把握、それぞれの機能のステータス管理とテスト要員のアサインと、やることはいくらでもある。仕事が大好きということではないが嫌いでもない。こういう時は集中させてくれる良い薬にもなる。
「牧村」
振り返ると、木ノ原部長がいた。
牧村健殿お疲れ様。峯岸です。牧村君。君に至急で異動の辞令が出ています。私は今日、名古屋出張から夕方頃本社に帰るので、そこで打ち合わせを頼みます。よろしくお願いします。
至急?人事に至急も何もないと思うが、懲戒処分でも受けるのだろうか。いや、心当たりがない。刑事罰に問われるようなことはしていないし、飲酒運転も、もちろん人殺しもした記憶がない。
峯岸本部長牧村です。打ち合わせの件、承知しました。至急の辞令というのは、私に何か法律違反などの嫌疑がかかっているのでしょうか。心当たりがありません。取り急ぎ、16時から会議室をおさえました。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

――どうしてそんなことになったのか、今でもわからない。僕が、あんな大きなものを操縦することになるなんて。平和であることは確かに大事な事だけど・・・。
「ちっ」
今日もまた、だ。
この人は毎朝毎朝飽きもせずに周囲とちょっとぶつかるだけで不機嫌な顔をする。そして小さく声を出す。そんなことをしても自分も含め誰も幸せにはならないだろうに。